
「パソコンの性能をもっと引き出したい」と思ったことはありませんか。アンロック版のIntel CPUをお使いなら朗報です。オーバークロックは、その潜在能力を引き出すための重要な手段。工場出荷時の設定を超えてCPUを動作させることで、ゲームもクリエイティブ作業も日常の処理も、より軽快に動くようになります。アンロック版Intel CPUを対象に、ステップバイステップでオーバークロックの進め方をご紹介します。内容はシンプルで、初めての方でも安心して取り組めます。
目次
Part 1:オーバークロックのセットアップと準備
Intel CPUをオーバークロックする前に必要なもの
オーバークロックを始める前に、適切なツールが揃っているか確認しましょう。楽しいけれど難易度の高いハイキングに備えるのと同じで、安全に楽しむためには適切な装備が必要です。必要なものは次のとおりです。
Kシリーズ対応のIntel CPU
オーバークロックが可能なのは一部のIntelプロセッサーのみです。モデル名の末尾に「K」または「KF」が付くCore i9-12900Kのような製品が「アンロック」版で、オーバークロックを前提としたCPUです。
Zシリーズマザーボード
Z690やZ790などの「Z」チップセットを搭載したマザーボードが必要です。KシリーズのCPUと組み合わせて使用します。これらのマザーボードはBIOSに適切な設定項目が用意されているため、オーバークロックが可能です。
市販の高性能CPUクーラー
オーバークロック時は発熱量が増加します。標準付属のクーラーでは冷却が追いつかない場合があるため、より強力なサードパーティ製クーラーが必要です。詳細は後ほど説明します。
熱伝導グリス
CPUからクーラーへ効率よく熱を伝えるために欠かせない材料です。クーラーに付属している場合でも、高品質なグリスを1本用意しておくと安心です。
信頼性の高い電源ユニット(PSU)
オーバークロックは消費電力が増えます。各パーツに安定して電力を供給できる高品質な電源ユニットが必要です。
根気
オーバークロックはテストと微調整を積み重ねるプロセスです。安定かつ安全な設定を見つけるには、焦らず根気よく進めることが大切です。
オーバークロックの効果
オーバークロックとは、CPUの動作クロックを引き上げることです。クロックはプロセッサの「鼓動」のようなもので、クロックが高いほど1秒あたりにこなせる計算量が増え、処理が速くなります。結果として、ゲームのフレームレート向上、動画レンダリングの高速化、そしてPCやミニPC全体のキビキビした操作感につながります。ただし、この性能向上には代償もあり、消費電力と発熱量が増えます。慎重に行わないとCPUの寿命を縮める可能性もありますが、ご安心ください。本ガイドでは正しい手順で安全に進める方法を解説します。
冷却こそすべて:空冷 vs AIO vs カスタム水冷
オーバークロックにおいては、とにかく冷却が最重要です。負荷をかけるほどCPUは高温になります。温度が上がりすぎると、損傷を防ぐために自動的に速度を落とす「サーマルスロットリング」が発生します。これはオーバークロックの目的に反します。最悪の場合、過度な高温はCPUに恒久的な損傷を与えることがあります。
- 標準クーラー:一部CPUに付属する基本的なクーラーでは、オーバークロックには力不足です。上位のクーラーへのアップグレードが必要です。
- 空冷クーラー:十分な効果が見込める入門用。ヒートパイプと大型ヒートシンク、ファンを組み合わせてCPUから熱を逃がします。
- オールインワン(AIO)水冷:さらに優れた冷却性能を発揮します。密閉ループの冷却液でCPUの熱をラジエーターへ運び、ファンで放熱します。オーバークロッカーに人気の選択肢です。
- カスタム水冷ループ:最高の冷却性能を狙うならこれが最有力です。最も高度でコストもかかりますが、冷却能力は最大です。
BIOS vs Intel XTU:最適なオーバークロック方法
Intel CPUをオーバークロックするには、マザーボードのBIOSを使う方法と、Windows上のIntel Extreme Tuning Utility(XTU)を使う方法があります。どちらにも長所と短所があります。
- BIOS(Basic Input/Output System):最も一般的で、かつ強力なオーバークロック手法です。細かな調整に必要な設定が揃っており、最高の動作と安定性を追求できます。最初は少し不安かもしれませんが、最良の結果が得やすいため、この方法をおすすめします。
- Intel XTU:Intel XTUはWindowsベースのユーティリティです。扱いやすく、オーバークロック初心者の入門手段として最適です。一方で、BIOS経由のオーバークロックほどの安定性や調整の自由度は期待できません。
安定したオーバークロックを実現する最良の方法はBIOS方式であり、本ガイドでもこの手順を中心に解説します。BIOS方式を学ぶことで、PCやミニPCの仕組みをより深く理解できるようになります。
BIOSを更新し、まずはバックアップを
設定を変更する前に、マザーボードのBIOSが最新かどうかを必ず確認してください。BIOSの更新は、安定性や互換性の向上につながります。最新のBIOSは、通常マザーボードメーカーの公式サイトで入手できます。作業を始める前に、重要なファイルのバックアップやシステムの復元ポイントも作成しておきましょう。データ消失の可能性は低いものの、念のため備えておくほうが安心です。
Part 2:Intel CPUのオーバークロック手順(ステップバイステップ)
STEP①:BIOS/UEFI設定にアクセス
まずはPCのBIOSに入ります。一般的には、再起動して起動中にキーボードの「Delete」または「F2」キーを連打します。使用するキーはマザーボードメーカーによって異なるため、不明な場合は付属のマニュアルを確認してください。BIOSに入ると、まずは簡易表示の「EZ Mode」が表示されることが多いです。オーバークロックの詳細設定を行うには、「Advanced Mode(詳細モード)」へ切り替えます。
STEP②:CPU倍率(マルチプライヤ)の調整
オーバークロックの要となるのがCPU倍率(CPU比率)です。通常100MHzのベースクロックに倍率を掛けた値がCPUの動作クロックになります。たとえば倍率47なら4.7GHz(100MHz × 47)です。CPU比率は手動で設定し、まずは少しだけ引き上げます。例として、ベースクロックが3.7GHzのCPUを4.0GHzにしたいなら、倍率40を試すとよいでしょう。最初は2~3段階の引き上げから始めると、200~300MHzの上乗せが見込めます。
STEP③:コア電圧の微調整
より高いクロックを支えるため、コア電圧の引き上げが必要になる場合があります。ここは慎重に行うことが重要です。電圧を上げすぎるとCPUを損傷しかねません。コア電圧は1.2V~1.35Vあたりから段階的に上げるのがポイントで、システムが不安定なときのみ調整します。IntelおよびTom’s Hardwareの専門家が述べている通り、標準的な冷却環境の現行CPUでは1.4Vを超えないことが鉄則です。
STEP④:ロードライン・キャリブレーション(LLC)と電力制限
ロードライン・キャリブレーション(LLC)を設定することで、高負荷時に電圧が大きく降下して不安定になることを防げます。LLCは中~高設定を目安にします。あわせて、CPUの電力上限(Power Limits)を引き上げ、より長時間の高出力の許可が必要となる場合もあります。
STEP⑤:設定の保存とWindowsの起動
調整を終えたら、変更を保存して再起動します。多くのBIOSは設定をプロファイルとして保存できます。あとから戻したいときに便利です。保存後は再起動し、そのままWindowsを起動させます。
STEP⑥:Cinebench/Prime95でストレステスト
次に行う最重要工程がストレステストです。オーバークロックの安定性を確認するため、Cinebench R23やPrime95などでCPUに負荷をかけます。少なくとも30分は実行し、その間はCPU温度を注視しましょう。高負荷時でも85℃未満に収まっているのが目安です。もしクラッシュやエラーが出る場合は、BIOSに戻って倍率を下げるか電圧をわずかに上げる必要があります。現在の設定が安定していないことを意味しています。
STEP⑦:ベンチマークでビフォー/アフター比較
動作が安定したら、成果を数値で確認してみましょう。CPU-Z、Cinebench、Geekbenchなどのベンチマークで、オーバークロック前後の性能を比較できます。あわせて、好きなゲームでFPSが向上しているかなど実利用での体感もチェックします。努力の結果が目に見える、いちばん楽しい瞬間です。
👉あわせて読む:AMDオーバークロックガイド:CPUの潜在能力を解き放つ方法
よくあるオーバークロックのトラブル解決
十分注意しても、問題が起きることはあります。発生しがちな症状と対処法をまとめました。
- PCが起動しない:オーバークロックしすぎている可能性が高いです。まずは設定を戻す/倍率を下げるのが基本です(手順は後述)。
- 高負荷時にブルースクリーン(BSOD)が出る:システムが安定していないサイン。倍率を下げるか、CPU電圧をごくわずかに上げて様子を見てください。
- アイドル時の温度が高い:待機中なのにCPU温度が高い場合は、冷却不足か電圧の上げ過ぎが考えられます。
- 安全な電圧の目安:日常使用では1.4V未満に収めるようにしましょう。
オーバークロックに失敗したときのBIOSリセット方法
オーバークロック後にPCが起動しなくても慌てる必要はありません。BIOSを初期設定に戻すのは簡単です。次のいずれかの方法で実行できます。
- CMOSクリアジャンパ:多くのマザーボードにはCMOSクリア用のジャンパが用意されています。これを操作するとBIOSがリセットされます。
- CMOS電池の取り外し:マザーボード上のボタン電池を数分間外し、再装着します。この方法でもBIOSをクリアできます。
- BIOSのリセット機能:近年の多くのBIOSには、工場出荷時の設定へ戻す機能があります。
オプション:オーバークロック後にアンダーボルトで温度を改善
オーバークロックが安定したら、CPUのアンダーボルトを試してみましょう。クロックは維持したまま電圧をわずかに下げる調整で、温度や消費電力の低減が期待できます。手軽な方法としては、Intel XTUの活用がおすすめです。
- Intel CPUの安全な電圧・温度の目安
| CPU世代 | 安全電圧の目安 | 最高安全温度 |
|---|---|---|
| 第12世代以降 | 1.1V~1.35V | 85℃ |
| 第10/第11世代 | 1.0V~1.35V | 85℃ |
注記:これらは一般的な目安です。最新情報は必ずお使いのCPUに付属するドキュメントをご確認ください。
アンロック版のIntel CPUをオーバークロックすれば、ハードウェアの性能をさらに引き出せます。本ガイドに沿って、焦らず、安定性と冷却を最優先に進めれば、CPU本来の力を安全に発揮できます。スピードアップのメリットを存分に体感してください。
安全に行うIntel CPUのオーバークロック:最後のヒント
- 1.4Vを超えない:通常のオーバークロックにおける安全確保をするための最重要ルールです。
- 冷却を最優先に:安全かつ安定したオーバークロックには十分な冷却が不可欠です。
- 長期的に安定性を監視:ストレステストをクリアした後も、安定性を継続的に確認しましょう。
- 「シリコン・ロッタリー」を受け入れる:CPUには個体差があり、同じ型番でも伸び方はさまざまです。他人と同じクロックに届かなくても気にしないでください。PCMagの専門家が言う通り、これは「シリコン・ロッタリー(シリコンの宝くじ)」です。
よくある質問
KシリーズとXシリーズのみがオーバークロックに対応しています。
適切な手順と十分な冷却があれば安全といえます。TechRadarも「オーバークロックは実はとても簡単で、安全である」と述べています。
はい。Intelプロセッサーでは保証が無効になる場合があります。Intelの公式見解でも「クロック周波数や電圧の変更は、製品保証が無効になる場合があります」とされています。
一般的には10~20%程度ですが、冷却環境や個体差によって変わります。
初心者にはIntel XTUが扱いやすく、上級者はBIOSの方が細かくコントロールできます。





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