
NPU(Neural Processing Unit)が登場するまでは、汎用性の高いCPUと、画像処理に強いGPUが主流でした。AI技術の進化とともに、NPUが注目されるようになりましたが、性能面ではGPUの方が圧倒的に強力です。しかし、NPUはバッテリー効率において優れており、全く異なる価値を提供します。
最近では、NPUを搭載したパソコンも登場し、省電力なAI処理が可能となっています。ICT市場調査コンサルティングのMM総研によると、AIパソコンは今後5年間で急速に普及が進み、2028年度には法人向け年間出荷台数の3分の2に相当する525万台規模まで需要が拡大すると予想されています。(出典元:MM総研)
しかし、「NPU搭載ノートと従来のゲーミングノート、どちらを選ぶべき?」と迷われている方は多いのではないでしょうか。そんな方のために、本記事では、NPUとCPU・GPUの違いと、あなたの用途に応じた選び方について具体的に解説します。
NPUとは?
NPU(Neural Processing Unit)とは、ニューラルネットワーク(Neural Network)に特化した処理を高速に行うために設計されたプロセッサです。その名の通り、脳のニューロンをモデルにした処理方法に基づいており、機械学習やディープラーニングの基盤を支える重要な役割を果たします。

NPUが注目される理由と発展
NPUが注目されるようになったのは、2010年代後半です。それまでは、汎用的なタスクをこなすCPUや、並列処理に強いGPUがAI処理にも使われていましたが、AI技術の進化に伴い、これらのプロセッサでは効率的に処理できないタスクが増えてきました。特に、機械学習やディープラーニングのような複雑で大量のデータを扱う処理においては、専用に設計されたデバイスの必要性が高まりました。そこで導入されたのがNPUです。
大きな話題となったのは、2017年にAppleがiPhoneに「Neural Engine」と呼ばれるNPUを搭載したことです。それに続き、他のスマートフォンメーカーやハードウェア企業においてもNPUを搭載し始めました。
パソコンにNPUをいち早く取り入れた企業の一つがIntelです。Intelは、2023年に発表されたCore Ultraシリーズのプロセッサで、NPU(Neural Processing Unit)を初めて搭載しました。このプロセッサにより、顔認識、音声アシスタント、自然言語処理などのAIタスクが高速に実行され、リアルタイムでのAI処理が大幅にスムーズになりました。
AMDもまた、Ryzen 8000Gシリーズの上位モデルにおいて、AIアクセラレーション機能を強化したプロセッサを提供しています。このプロセッサは、AI処理を効率化するための専用回路を持ち、バッテリー駆動での効率的なAI処理が可能です。これにより、リアルタイム翻訳や映像・音声編集、字幕生成といったAIタスクをクラウドに依存せず、ローカルデバイスで実行できるようになりました。
NPUは何に特化している?
NPUはAI処理の効率化に特化しています。特化できる理由は、以下の通りです。
- ニューラルネットワークに最適化: NPUは、AIにおける膨大な行列計算や畳み込み演算を高速処理するための専用回路を持っており、特にニューラルネットワークの推論処理で優れた性能を発揮します。
- 並列処理に特化: NPUは大量のデータを同時に処理できる並列計算ユニットを備え、AIタスクに特化して並列処理が効率的に行えるよう設計されています。
- 効率的なメモリ管理: NPUはデータの読み書きが最適化され、AI処理に必要なメモリ操作が迅速に行われることで、全体的なパフォーマンスが向上します。
- 省電力で高効率: AIタスクに特化したNPUは、無駄な電力消費を抑え、モバイルデバイスでも長時間効率的にAI処理が可能です。
- リアルタイム処理: NPUは顔認識や音声認識など、リアルタイムでのAI処理において低遅延で応答できるよう最適化されています。
これらにより、リアルタイムの顔認識や音声認識(例:Siri、Google Assistant)や、低消費電力でのAI処理(例:スマートフォンやスマートウォッチ)、自動運転やリアルタイム制御(例:自動運転車やドローンなど)、高精度な画像処理・動画編集(例:複雑な画像処理など)が可能となりました。
NPUとGPUの違い
NPUを比較するにあたってもう一つ欠かせないものが、GPUです。GPU(Graphics Processing Unit)とは、グラフィックス処理を専門に行うプロセッサです。もともとは3Dグラフィックスやゲームの描画をスムーズにするために開発されました。
性能の違い
今度は、NPUとGPUについて、処理速度と消費電力がどのように違うのかご説明します。また、それに関連して、Core Ultraについてもご説明します。
処理速度
まずは、処理速度です。GPUは、AI処理において圧倒的な性能を持っています。最新のNVIDIA RTX 5090は3,352AI TOPSという性能を発揮する一方、現在最高性能のNPU(AMD Ryzen AI 300シリーズ)は約50TOPSです。生のAI処理能力では、GPUがNPUを大幅に上回ります。
GPUは、もともとグラフィックス処理や映像レンダリングのために開発されたため、大規模な並列処理が得意です。AIのトレーニングや大規模データの処理において高いパフォーマンスを発揮しますが、特に推論タスクに関しては、効率が劣ることがあります。一方でNPUは、AI処理に特化した設計を持ち、特にニューラルネットワークの推論フェーズにおいて最適化されています。NPUは推論処理をリアルタイムで効率的に実行できるため、顔認識や音声認識などのタスクで高い処理効率を発揮します。
消費電力
次に、電力効率です。GPUは、複雑な計算を大量に同時処理できる強力なユニットですが、消費電力が高いという特徴があります。特にAIモデルのトレーニングやビデオ編集などの処理で、多くの電力を消費します。NPUは、AIタスクに特化した専用設計により、電力効率が非常に高いです。これにより、スマートフォンなどのバッテリー駆動デバイスでも、長時間にわたって効率的にAIタスクを処理することができます。
NPUとCPUの違い
NPUを比較するにあたって欠かせないのがCPU(Central Processing Unit)です。この言葉を聴いたことのある人は多いでしょう。CPUと呼ばれ、中央処理装置として多くのPCに搭載されており、汎用的なタスクを処理するプロセッサです。
性能の違い
では、NPUとCPUについて、処理速度と消費電力がどのように違うのかご説明します。
処理速度
まずは、処理速度の違いです。CPUは汎用的なタスクをこなすために設計されており、シングルスレッドの処理に優れています。アプリケーションの実行やOSの制御など、幅広いタスクに対応します。
NPUは、大量のデータを並列に処理する設計のため、顔認識や音声認識などリアルタイムのAI処理が効率的に行えます。ただし、NPUが得意なのは特定のAI推論タスクに限られており、CPUのような汎用性はありません。
消費電力
次に、電力効率です。NPUは、AIタスクに特化しているため、電力効率が非常に高いです。一方で、CPUは汎用的に設計されているため、消費電力が大きくなりがちです。特に、AI処理のような特定のタスクを行う際には、より多くの電力を消費し、効率が低下します。
NPUとCPU・GPUの違い

ちなみに、CPUはクロック周波数 (GHz) 、GPUはCUDA/Streamプロセッサー数などの基準で性能を評価されますが、NPUにはTOPS (Tera Operations Per Second)という基準があります。これは、「そのシステムが1秒あたり何兆回の演算を実行できるか」というものです。たとえば、50TOPSであれば、1秒間に50兆回の演算を実行できる力を持っている、ということです。
各メーカーがAIパソコンの性能の根拠を示す際に、このTOPSを基にすることがありますが、ある特定のタスクにフォーカスした値となっているかもしれません。しかしながら、判断材料のひとつになることは間違いないでしょう。
Core Ultraの性能
最新のCore Ultraプロセッサは、実質的に第15世代にあたるIntelプロセッサとして登場しています。すでにご説明した、CPU・GPU・NPUの三位一体となったシステムを提供することで、従来のプロセッサを超える性能となりました。さらに、電力効率が大幅に向上しており、高性能を維持しつつ省電力化が図られています。これにより、バッテリーの持続時間が延びるだけでなく、システムの熱管理も改善されるでしょう。
Wi-Fi 7や現時点では非対応ですが80GbpsであるThunderbolt5の搭載も予定されています。また、Intel Application Optimization(APO)という機能が追加されました。高速なPコアとEコアについて、ゲームによっては振り分けが難しかったところ、対応ゲームについては適切な振り分けがされ、フレームレートについて、1割以上の改善が期待されます。
処理能力
処理能力に関しては、Core Ultraプロセッサが多くのタスクを並行して処理するために、マルチコアアーキテクチャを採用しています。これにより、AIを使用した負荷の高い作業でもスムーズな動作が可能です。
NPUの実際の性能については、Intel Core Ultraシリーズは約11TOPS(NPU単体、総合AI性能なら48TOPS)の性能を提供します。これは日常的なAI機能(音声認識、背景ぼかし、写真整理など)には十分な性能であり、軽度なAI画像処理も可能ですが、本格的なAI画像生成や大規模言語モデルの実行には、依然として専用GPU(RTX 4060以上など)が推奨されます。
Core Ultraの真価は、効率的なAI処理とバッテリー持続時間の向上にあります。NPUがバックグラウンドでAI機能を処理することで、CPUとGPUの負荷が軽減され、全体的なシステム効率が向上します。
NPU搭載AIパソコンを購入すべき?
これらCore Ultraプロセッサの技術的特徴を理解した上で、実際にNPU搭載パソコンを購入すべきかどうか、検討してみましょう。従来のゲーミングノートPCが20万円前後なのに対し、NPU搭載機も似たような価格帯。どちらもAI処理ができると謳っています。この状況で、どちらを選ぶべきか。
実は、この迷いの根本には誤解があります。NPU搭載機は「より強力なAI処理」のためのものではないのです。
考えてみてください。スマートフォンでは、朝から晩まで顔認証やカメラの被写体認識、音声アシスタントが動作していますが、バッテリーは1日持ちます。これを可能にしているのがNPUです。一方、ゲーミングPCでStable Diffusionを動かすと、強力なGPUでも相当な電力を消費し、ノートPCなら2-3時間でバッテリーが尽きるでしょう。
GEEKOM GT1 MEGAのようなCore Ultra 9 185H搭載機の場合、TeamsやGoogle Meetでの会議中、背景ぼかしやノイズ除去をNPUが処理します。これらの機能をCPUで処理した場合と比較して、消費電力は約1/3になります。8時間の在宅勤務で考えると、この差は無視できません。さらに、DDR5 32GBメモリや最大2TBのストレージ、Wi-Fi 7対応という基本性能も充実しており、動画編集での色調補正、配信での背景処理、写真の切り抜き作業なども効率的にこなせます。
では、GPU搭載機が適している場面はどこでしょうか。それは、処理速度が最優先される場合です。Adobe Premiere ProでのAI動画編集、Blenderでの3Dレンダリング、ローカルでの大規模言語モデル実行。これらは現在のNPUでは対応できない領域です。
つまり、選択の基準は明確です。毎日の業務で小さなAI機能を長時間使うならNPU搭載機。週末にじっくりクリエイティブ作業をするならGPU搭載機。技術の進化により、NPUの性能も着実に向上しています。将来的にはより多くのタスクに対応できるようになるでしょうが、現時点では、ご自身の用途を明確にして選択されることが重要です。省電力性能と実用的なAI機能を重視される方には、NPU搭載機という新しい選択肢が、確かな価値を提供できるはずです。
まとめ
ここまでNPUについて詳しく見てきましたが、「結局、AI処理に最も優れているのはGPUではないか」と思われた方も多いでしょう。その通りです。生のAI処理能力では、RTX 5090の3,352AI TOPSという性能に、現在のNPUは到底及びません。
しかし、技術の価値は単純な性能比較では測れません。GPUを搭載したゲーミングノートを会議室に持ち込んで、一日中TeamsやZoomを使用することを想像してみてください。午後にはバッテリー切れで電源を探すことになるでしょう。
NPUが解決しているのは、まさにこの問題です。顔認識も、背景ぼかしも、音声ノイズ除去も、私たちが意識せずに使っているAI機能を、電力を気にすることなく動作させ続ける。スマートフォンで当たり前になったこの体験を、パソコンでも実現しようとしているのです。
Core UltraやRyzen AIのようなNPU統合プロセッサの登場により、選択肢は確実に広がりました。GEEKOM GT1 MEGAのような製品は、従来のミニPCの概念を超えて、省電力でありながらAI時代に対応した新しいワークステーションの形を提示しています。
今後、NPUの性能向上とソフトウェアの最適化が進めば、より多くのAIタスクがローカルで、効率的に処理できるようになるでしょう。その時、高性能なGPUは創造的な作業のための特別な道具となり、NPUは日常に溶け込んだ見えないアシスタントとなる。そんな使い分けが、これからのパソコン選びの新しい基準になっていくのかもしれません。
コメント (2)
novaden241言います:
5:20 AM の 2025年5月30日AI 処理で NPU ◎ GPU 〇 と表記されてますが、誤った情報だと思います。
GPU には余計な機能(グラフィックス)がついてるとはいえ、演算性能自体はGPUの方が圧倒的に良いでしょう。(もちろんモノによりますが)
現時点で最強そうな GPU と NPU の比較:
RTX 5090: 3,352AI TOPS [^1]
Ryzen AI 300: 50 TOPS [^2]
[^1]: https://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/1656874.html
[^2]: https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/ubiq/1608446.html
消費電力に関しては紹介されている通り、CPU大 (200~300W)、GPU大 (5090 500W) と思います。
Geekom公式言います:
5:08 PM の 2025年6月26日弊社の記事に対するご評価とご意見をいただき、誠にありがとうございます。
いただいた内容をもとに記事を修正いたしましたので、ぜひまたご覧いただければ幸いです。
貴重なご指摘を頂戴できましたこと、心より感謝申し上げます。